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BBCにおけるデータ・ジャーナリズム

「データ・ジャーナリズム」という用語は、幅広い分野をカバーしており、報道機関においては様々な意味で用いられる。よって、BBCにおいて「データ・ジャーナリズム」という用語で我々が何を言わんとしているか定義するのが良いだろう。広い意味において、この語は以下のうち1つ以上と関連したデータを利用するプロジェクトをカバーしている。

  • 読者自身に関係ある情報を発見することを可能にする

  • 注目に値する未知のストーリーを明らかにする

  • 複雑な問題に対し、読者にとってより良い理解への手助けとなる

これらのカテゴリーは重複するかもしれない。また、オンライン環境において、これらは一定のレベルのビジュアライゼーションによって恩恵を受けるものである。

パーソナルな問題に

BBCニュースのウェブサイトにおいては、読者にサービスやツールを提供するため、10年以上に渡ってデータを利用している。

BBCが1999年に初回公開した、政府が年に1度公開するデータを使用した school League Tables(学校のリーグテーブル)が最も堅実な実例である。郵便番号を入力すれば、地域の学校を表示し、様々な指標で比較することができる。また公開に先駆けて、記事に関わるデータを収集するために教育ジャーナリストたちも開発チームに参加した。

このプロジェクトを始めた当初、一般人がデータを探す方法を提供する公的なサイトは存在していなかった。しかし今や、相当するサービスを国自体が持っており、BBCから提供されるのはデータから導き出されるストーリーへと焦点が移動している。

一般市民がはっきりと関心を持っているデータについて、入手の手段を提供することこそがこの領域の挑戦である。世間一般に対し、通常、広く公開されていない巨大なデータセットを紹介したプロジェクトにおける最近の例としては、 Every. death on every road(すべての道路におけるすべての死亡事故). があった。英国の過去10年間で死亡者が出た交通事故の地域をユーザーが郵便番号から検索できるシステムを提供した。

治安に関するデータから現れる主な事実や数字をBBCはビジュアル化 visualized した。また、よりダイナミックな印象や人間味をプロジェクトに与える目的で、我々はロンドン全域で起こる事故を逐一監視しようとロンドンの救急車協会(London Ambulance Association)とBBCロンドンのラジオ・テレビと提携した。Twitter上のハッシュタグ #crash24 と併せて、オンラインで24時間体制で レポートされ、衝突が報告されるたびに地図上にマッピング マッピング された。

シンプルなツール

膨大なデータセットを探索する手段を提供するのと同様に、BBCは読者個人に関連する情報の断片を提供するシンプルなツールを作ることにも成功している。こういったツールは長々とした解析データの探索を好まず、時間のない人々に訴求するものである。私的な事実を簡単にシェアする機能は、我々が標準的に取り入れ始めたものである。

世界の人口が70億を突破した正式な日に合わせて公開された、BBCの特集記事 「The world at 7 billion: What’s your number?(70億の人々の世界: あなたは何番?)」はこの手法における面白い例である。誕生日を入力することで、生まれた日と世界の人口に応じた自分の「番号」を知ることができ、TwitterやFacebookを通じて番号をシェアすることができる。このアプリケーションでは、国連人口開発基金によって提供されたデータを利用した。非常に人気を集め、2011年英国において最もFacebookでシェアされたリンクとなった。

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Figure 3. The world at 7 billion: What’s your number?(70億の人々の世界: あなたは何番?)(BBC)

もうひとつ最近の例として、BBC budget calculator(生活費計算機)がある。これは大臣の予算が施行されたら、どれほど暮らし向きがよくなるのか、また悪くなるのか、読者に理解させ、その図をシェアさせるものである。我々は会計事務所KPMG LLPと提携し、彼らから年間予算に基づく試算を提供していただいた。その後、ユーザーが使いやすい魅力的なインターフェースを提供できるよう、我々は熱心に取り組んだ。

データ・マイニング

しかし、このどこにジャーナリズムがあるのだろうか。データにストーリーを見出すことが、データ・ジャーナリズムの従来の定義である。データベースの中に埋もれている唯一の情報はあるか?数字は正確か?データは問題を証明しているのか、もしくは反証しているのか?これらの質問を、データ・ジャーナリストやコンピューターを用いる記者が、自らに問いかけなければならない。しかし、価値ある発見に向けて希望を持ち、膨大なデータをふるいにかける作業にはかなりの時間を必要とするだろう。

この分野では、専門性とストーリーを調査するための時間を持った調査チームや調査プログラムとパートナーを組むことがもっとも生産的であると我々は考えている。BBCの時事番組Panoramaは調査ジャーナリズムセンター(Centre for Investigative Journalism)と数ヶ月協業し、公的機関の給料についてデータを収集した。その結果であるテレビのドキュメンタリー番組とオンラインの特集記事 "Public Sector pay: The numbers"(公的機関の給与)は、機関ごとの分析から、すべてのデータをビジュアル化して公開したものである。

調査ジャーナリストと提携するのと同様、専門知識を持った数多くのジャーナリストを抱えておくことも欠かせない。チーム内のあるメンバーが政府の歳出見直しのデータを分析した際、実際の数字よりも大げさに感じられる、という結論に至った。その結果は独占記事 「Making sense of the data(データを読み解く)」 で、 明解なビジュアル によって補完されたその記事は王立統計学会賞を受賞した。

問題を理解する

しかし、データ・ジャーナリズムは、他の誰も気づいていない特ダネである必要はない。データ・ビジュアライゼーションのチームの仕事は、読者に説得力のある体験をさせるために、素晴らしいデザインと編集における語り口を結びつけることである。正しいデータのビジュアル化は、問題や物語のより良い理解のために行われることであり、我々はしばしばこのアプローチをBBCのストーリーテリングにおいて行う。英国における失業給付受給者のカウントに用いられたひとつのテクニックは、 データをヒートマップにして時間における変化をわかりやすく伝えるものだった。

データ特集 "EU圏での借金" は、国家間の融資の複雑なネットワークを調査したものである。これは明解なテキストに加え、色と矢印の太さを用いて、視覚的なやり方で小難しい問題を説明するものである。重要なのは、読者が数字によって圧倒されないように特集を見て回ってもらい、話を理解してもらうことを奨励することである。

チームの概要

BBCニュースのウェブサイトのデータ・ジャーナリズムを担当するのはおよそ20人で構成されたジャーナリスト、デザイナー、開発者である。

データのプロジェクトやビジュアル化と同様、このチームはウェブ・サイト上のニュースにおけるインフォ・グラフィックスやインタラクティブなマルチメディアの特集をすべて担当する。同時に、我々が_ビジュアル・ジャーナリズム_と呼んでいる一連のストーリーテリングの手法をも作る。明確にデータ・ジャーナリストというメンバーは存在していないが、チーム内のすべての編集スタッフが、ExcelやGoogle Docsのようなデータ分析のための基本的なスプレッドシートのアプリケーションに熟達していなくてはならない。

あらゆるデータ・プロジェクトにおいて、中心となるのは、開発者たちの専門的スキルやアドバイス、デザイナーたちのビジュアル化におけるスキルである。我々が第一義的にジャーナリストであり、デザイナーであり、開発者である一方で、互いの専門領域に対する理解や熟練を高めるために努力せねばならない。

データを調査するための主な製品はExcel、Google Docs、またFusion Tablesである。それらほど頻繁ではないが、もっと大きなデータセットを調査する際には、MySQLやAccessデータベース、Soirをも使用してきた。出来事をどのようにLinked Dataの技術を用いてモデル化するか見極めるため、RDFやSPARQLも使用した。開発者たちはActionScript、Python、Perlなど、取り組むデータセットの扱い、分析等においてそれぞれの選ぶプログラミング言語をも使用する。Perlは公開の一部に利用される。

地理的データを調査したり、ビジュアル化する際にはEsriのArcMAPに加え、Google Map、Bing Map、Google Earthを使う。

グラフィックにはAfter Effect、Illustrator、Photoshop、Flashを含むAdobe Suiteを利用する。最近では、我々のデータのビジュアル化要件を満たしているJavaScript、特にJQueryや、Highcharts、Raphael、D3のようなJavaScriptライブラリを使うことが多く、サイト上でFlashを公開することはほとんどない。

Bella Hurrell and Andrew Leimdorfer, BBC