Loading

ニュースアプリの作り方

ニュース・アプリはニュースの背景にあるデータを覗き見る窓である。それは検索可能なデータベースかもしれないし、スマートな可視化かもしれないし、全く別の何かかもしれない。しかし例えアプリがどんな形態であれ、ニュース・アプリは読者にとって有益なデータとの出会いを提供するものである。それは例えば、住んでいる地域の犯罪傾向を調べたり、その地域の医者の安全記録を確認したり、立候補者の政治献金について検索したりといったことである。

至高のニュースアプリとは、単なる最先端のインフォグラフィックスのことではなく、持続性のある作品のことを言う。そのようなアプリは、読者の現実の問題を解決する手助けをしたり、読者の疑問に斬新で役に立つ答えを与えたりすることを通してニュースの寿命と無縁となり永続的なリソースとなるのである。ProPublicaのジャーナリストたちがアメリカの腎臓透析病院の安全性について調べた時、彼らは読者が自分たちの地元の病院が安全であるかを調べることのできる アプリ を作った。そのような身近で重要なサービスを提供することでユーザーとの関係作りを行い、説話的な物語だけでは達成できないような成果を残すことができるのだ。

永続的な価値を持つものを創造することにこそ最新鋭のアプリを作る挑戦と有望性がある。どのように素晴らしいアプリを開発するかについてを議論する際、あなたが開発者、マネージャーいずれであっても、まず初めに製品開発の考え方について議論すべきなのだ。また、ユーザーに焦点を当てすぎないように気を配り、あなたが最も価値あるとするものを作り出すよう努力するのがよい。こうしたことを踏まえると、アプリを作り始める前に以下のような三つの疑問について自問すると良いだろう。

06 AA
Figure 1. Dialysis Facility Tracker (ProPublica)

訴求する相手は誰で、その人たちは何を欲しているだろうか?

ニュース・アプリは記事のためにあるのではなく、ユーザーのためにあるのである。あるプロジェクトではそのユーザーというのは自分の通う病院の安全性を確認したい透析患者かもしれないし、他のプロジェクトでは地震災害に気づかない家の所有者かもしれない。これは全てのよい製品に共通することだが、たとえユーザーが誰であれ、ニュースアプリを作る際、それを使う人々についてまず初めに議論すべきなのである。

たった一つのアプリがたくさんのユーザーにとって役に立つこともある。そのような例として Curbwise と呼ばれるプロジェクトがあげられる。(ネブラスカ州の)オマハワールドヘラルド紙が作ったこのアプリは、重税をかけられていると考えているマイホーム所有者や近隣の不動産価格に関心のある住人や最近のセールス動向を知っておきたい不動産業者にとって重宝するものとなった。これらのケースの場合、アプリがユーザーの特別な需要に合致し、ユーザーが何度も訪れるようになったのである。

例えば、家の所有者であれば近隣の不動産についての情報を集めて自分たちの税金が不当に多いか議論するために、情報収集の手助けが必要となるであろう。そういったすべての情報を集積するのは時間のかかる複雑な作業である。Curbwiseは、ユーザーが課税額について地域の当局に問い合わせるのに必要なすべての情報を集め、 ユーザーフレンドリーなレポート を提供することで、それらの問題を解決してくれるのだ。Curbwiseのレポートは20ドルの課金販売をしていて、このレポートが実生活の問題を解決してくれるからこそ人々はレポートを購入するのである。

アプリがCurbwiseのように実生活の問題を解決してくれるものであろうが、面白いビジュアライゼーションを通して記事に付加的なストーリーを与えるものであろうが、まずは誰がユーザーであるかを常に意識するべきである。そのあとに、デザインや機能をニーズに合わせて作り込んでいけばよいのだ。

制作にどれくらいの時間を費やすべきか

ニュース編集室にいる開発者はまるで砂漠の水のごとく需要が大きく、一方その供給は限られている。するとニュース・アプリの開発は、日々のニューズルームに必要なことと、素晴らしい製品を作るための長期のコミットメントとの間の十分なバランスを取って行うことになる。

例えば、編集者が開発者であるあなたのところにやってきてこう言う。「来週、市議会で町の歴史的建造物を取り壊すかどうか決議をとるそうだ。歴史的建造物の場所を地図でぱっとみてわかるようなちょっとしたアプリをつくってくれないか」と。

開発者のあなたに与えられた選択肢は二つ。エンジニアとしての腕の見せどころと言わんばかりに個別のソフトウェアを使った豪勢な地図をつくることもできるし、あるいは、Google Fusion Tablesやオープン・ソースの地図のライブラリのような出来合いのツールを使って数時間で完成させることもできる。一つ目の選択肢を選べば、より良いアプリを作ることができるだろうし、二つ目の選択肢を選べば、それ以外にもっと長いインパクトを与えられるような別のものを作ることができるかもしれないのだ。

ストーリーが複雑だからと言って、必ずしもニュース・アプリにする必要はない。優先順位のバランスが重要なのだ。どんなアプリ制作もコストがかかることを覚えておこう。つまり、もっと別の影響力の大きなアプリケーションを作ることができていたかもしれない、ということだ。

物事をさらにレベルアップさせるには

ハイエンドなニュース・アプリは時間もお金もかかる。だからこそ結果について考えることが重要なのだ。一発屋のようなアプリを、なにか特別なものにまで価値を高めるには、どうしたらいいだろうか。

ニュースのライフサイクルを超えた永久的なプロジェクトをつくるのは一つの方法である。あるいは、制作時間を短縮できるようなツールを作って(そして、それをオープンソースにして)しまうのも良いだろう。そして、自分のつくったアプリに高度な解析を行い、ユーザーについて知ることも一つの方法だ。

多くの組織が国勢調査のデータをもとに、地図で人口の推移を自治体ごとに示すものを作成したが、the Chicago Tribuneはワンランク上のアプリを作り上げた。地図をスピーディーに作ることができ、他の団体も使えるようなツールを開発したのだ。

私の働く調査報道センター(the Center for Investigative Reporting)では、検索可能なデータベースを、イベントをトラッキングするフレームワークとともに組み合わせ、ユーザーが私たちのニュース・アプリのなかで如何に偶然の発見と探索を価値づけているか知ることができた。

経理屋の言うことのように聞こえるかもしれないが、 投資した見返り について必ず考えよう。汎用性のある問題を解決し、ユーザーと対話する新しい方法を作るのだ。タスクの一部をオープン・ソースにし、解析でユーザーの傾向を知り、Curbwiseのようにアプリが実際に収益につながるような事例を見つけてみよう。

終わりに

ニュース・アプリケーションの開発は、短期間の間に高いところまで到達している。ニュース・アプリの第一波はインフォグラフィック2.0のようなものだった。インタラクティブなデータ・ビジュアライゼーションが検索可能なデータベースと共に、記事で描かれているニュースをより高度に表現できるようデザインされたものだった。いまや、こうしたアプリケーションをオープン・ソースのツールを使って、記者でも締め切りに間に合うように作ることができる。そのおかげで、開発者はそれ以外の大きな課題について考える余裕ができたのだ。

ニュース・アプリ2.0は、ストーリーテリングとジャーナリズムの公共奉仕の強みを、製品開発の鍛錬と共に技術の世界の専門性とを組み合わせて生み出す方向に業界は向かっているだろう。これがもたらすものは、データが関連性を持った、読者にとって役立つようなイノベーションの劇的な増加を生むとともに、きっとジャーナリズムを手助けしていくことだろう。

Chase Davis(Center for Investigative Reporting)