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なぜデータ・ジャーナリズムが重要なのか?

何人かのデータジャーナリズムの主要な実践者や支持者に、なぜデータジャーナリズムが重要な発展だと思うのか尋ねた。以下が彼らの回答である。

データの流れをフィルタする

情報が乏しかった頃、我々の努力の大半はその探求と収集にささげられていた。今では情報はありあまっており、その処理がより重要である。我々は (1) 際限のないデータの流れから意味と構造を引き出す分析を行い (2) 重要で今日的な意味のあるものを消費者の頭に入れるプレゼンテーションをする二つのレベルで処理を行う。科学同様、データジャーナリズムは手法を開示し、複製で検証可能な形で発見を提示する。

Philip Meyer, Professor Emeritus, University of North Carolina at Chapel Hill

ストーリーテリングの新しいアプローチ

データジャーナリズムは、私が思うに、増え続けるストーリーテリングについてのツール、技術、アプローチの一式を包含する包括的用語である。従来からのコンピュータを補助に使った報道(データを「情報源」として使う)から最も最先端のデータ視覚化やニュースのアプリケーションまですべてを含むかもしれない。どちらにしろ目標はジャーナリスティックなものだ。つまり、現代の重要な問題に関するすべてを我々に伝えるのを支援すべく情報と分析を提供するという。

Aron Pilhofer, New York Times

ラップトップ付きのフォトジャーナリズムみたいなもの

「データジャーナリズム」と「言葉によるジャーナリズム」の違いは、異なる道具箱を使っているという点だけだ。我々は皆、生活のためにニュースを嗅ぎ分け、報じ、関連付ける。「写真によるジャーナリズム」みたいなものだ。カメラをラップトップに換えただけだよ。

Brian Boyer, Chicago Tribune

データジャーナリズムこそ未来

データ主導のジャーナリズムこそ未来だ。ジャーナリストはデータに精通する必要がある。かつてはバーにいる人たちと話をしてニュースを得たものだし、今後も時にはそういうやり方をするのかもしれない。しかし今や、それはデータをじっくり調べ、データを分析するツールを武器にし、面白いものを選び出すことにもなろうとしている。そして全体像の中でデータを捉え、どこですべてが組み合わさり、その国で何が起こっているかを人々が真に理解する助けるのだ。

Tim Berners-Lee, ワールド・ワイド・ウェブの創始者

数値演算と文章家の出会い

データジャーナリズムは、統計技術者と文章家の間のギャップをつなぐものである。外れ値を探し、統計的に有意なだけでなく今日の元々複雑な世界を逆コンパイルするのに適切なトレンドを特定するのだ。

David Anderton,, フリージャーナリスト

スキルセットのアップデート

データジャーナリズムは、既存のジャーナリズムにおける基本スキルでは十分でない時代におけるデジタルな情報源の検索、理解、そして視覚化の新たなスキルセットである。それは既存のジャーナリズムの替わりではなく、それに追加を行うものである。

情報源がデジタルな時代には、ジャーナリストはそれらの情報源にさらに近づくことが可能だし、そうしなければならない。インターネットは、我々の現状の理解を超える可能性を切り開いた。データジャーナリズムは、オンラインに適合すべく我々のこれまでの経験を進化させるまさに始まりなのだ。

データジャーナリズムは、報道機関にとって二つの重要な役割を果たす。それは(ニュースワイヤー以外から)ユニークなニュースを見つけ、監視機能を果たすことだ。特に金融危機の折には、これらは新聞が遂行すべき重要な目標である。

地方新聞の視点から見ても、データジャーナリズムは重要だ。「自分ちの玄関の緩んだタイルは、遠い異国の暴動より重要だ」という言い回しがある。タイルが顔にあたれば、人生にずっと直接的なインパクトがある。同時に、デジタル化はいたるところで進んでいる。地方新聞は身近なところでこの直接的なインパクトを受けるし、情報源はデジタル化しているのだから、ジャーナリストはデータからニュースを見つけ、分析し、視覚化する方法を知らなくてはならない。

Jerry Vermanen, NU.nl

情報の非対称への救済策

情報の非対称性(情報の欠落ではない。入ってくるスピードと量に見合った速度でそれを処理する能力に欠けること)は、人々が人生をどのように生きるか選択をくだす際に大きな問題となるもののひとつだ。出版物、映像、音声といったメディアから受けとる情報が市民の選択と行動に影響を与えている。すぐれたデータジャーナリズムは情報の非対称性と戦う助けとなる。

Tom Fries, Bertelsmann Foundation

データ主導のPRへの回答

計測ツールが使え、またその価格が下がっていることが、社会のあらゆる面での成果と効率への関心と自律的に組み合わさることで、政策決定者は自身の政策の進捗を計り、トレンドを監視して機会を見極めるようになった。

企業は、自分たちのパフォーマンスを示す新しい評価基準を作り出し続ける。政治家は失業者数の減少やGDPの上昇を誇示するのが好きだ。Enron、Worldcom、Madoff、Solyndra の事件に見られるジャーナリスティックな洞察の欠如は、多くのジャーナリストが明らかに数字の本質を見抜けなくなっている証拠である。たとえまったくのでっち上げであっても、図は誠実さのオーラをまとうので事実よりも鵜呑みにされやすい。

データが流暢に喋れれば、ジャーナリストは数字の羅列に直面しても批評精神を発揮できるし、広告代理店等との関わりにおいても本来の勢力をいくらかは奪い返すことができるかもしれない。

Nicolas Kayser-Bril, Journalism++

公式情報に対する独自の解釈を提供

2011年の壊滅的な地震とそれに続く福島原発の惨事の後、一般にデジタルジャーナリズムの分野で遅れを取っている国である日本のメディアの人間にもデータジャーナリズムの重要性がはっきり認識されるようになった。

政府や専門家が被害について信頼できるデータを出さず、我々は途方に暮れた。役人が(放射性物質の拡散を予測した)SPEEDIのデータを大衆から隠匿したが、たとえそれがリークされても我々にはそれを解析する用意がなかった。ボランティアが自らの機器を使って放射能に関するデータを集め出したが、我々には統計、補間、視覚化などの知識が備わってなかった。ジャーナリストは生のデータにアクセスし、公式見解に依存しないことを学ぶ必要がある。

Isao Matsunami, 東京新聞

データの氾濫への対処

デジタル革命が作り出す課題とチャンスはジャーナリズムを破壊し続ける。情報が潤沢な時代には、片や深夜のデータダンプを処理して中東で21世紀の地下出版を行っていて、片やある国の水質を可視化する最良の方法を探しているという違いはあれど、ジャーナリストも市民も皆同じくより良いツールを必要とする。我々が氾濫するデータをいかに消費するかという問題取り組むように、新たな出版プラットフォームもまた皆にデータをデジタルに集めて共有する力を与えつつあり、データを情報に変えている。記者や編集者がこれまでは情報の収集や伝達を担ってきたが、2012年のフラットな情報環境では、今やニュースデスクでなくまずオンラインにニュースが流れる。

事実、世界中でデータとジャーナリズムの結びつきが強さを増している。ビッグデータ時代において、データジャーナリズムの増大する重要性は、その実践者が文脈や明瞭さを提供できるということと 、――これがおそらく最も重要な点だが―― 世界で増大するデジタルコンテンツから真実を発見できることに支えられている。それは、今日の統合されたメディア組織が重要な役割を担わないことを意味しない。決してそうではない。情報時代において、ジャーナリストはこれまで以上にデータの波をキュレーションし、検証し、分析し、合成することが求められる。そうすることでデータジャーナリズムは社会で深い重要性を獲得する。

今日、ビッグデータ、特に構造化されていないデータの理解が世界中のデータ科学者たちの中心的目標になるだろうが、それは編集局で働いていようが、ウォールストリートで働いていようが、シリコンバレーで働いていようが関係ない。特にその目標は増加する一般的なツールセットにより実質的に実現するだろう。このことも、そのツールセットを使うのが政府の科学技術者か、ヘルスケアの科学技術者か、編集局の開発者かといった立場によらない。

Alex Howard, O’Reilly Media

データ化する我々の生活

良質なデータジャーナリズムは難しい。なぜなら優れたジャーナリズムは難しいものだからだ。データジャーナリズムとはデータを取得し、それを理解し、そしてニュースを見つける方法を理解することを意味する。たかが正しいボタンを押すくらいの話なら、それはジャーナリズムとは言わない。けれども、データジャーナリズムはデータを価値あるものにするものだし――我々の生活がますますデータ化する世界では――自由で公平な社会に欠かせないものである。

Chris Taggart, OpenCorporates

時間を節約する方法

ジャーナリストには、何かを手で書き写したり、PDFからデータを取り出そうといじくり回して無駄にする時間はないので、少しばかりコードを習うなり助けになる人をどこで探すか知ることにものすごく価値がある。

フォーリャ・ジ・サンパウロ紙(Folha de São Paulo)のある記者は、地方予算に取り組んでいて、サンパウロ市役所の会計をオンラインにあげたことに感謝する電話をくれた(一人のハッカーが二日でやった仕事だ!)。彼が言うには、この三ヶ月もの間それを手で書き起こして記事を書こうとしていたそうだ。私はそれを聞いて、議会を監視する報道機関の「Contas Abertas」が「PDF問題」を解決した話を思い出す。つまり、15分かけて書いた15行のコードで一月分の仕事を解決したのだ。

Pedro Markun, Transparência Hacker

ジャーナリストの道具箱における欠かせないパーツ

私はデータジャーナリズムの「ジャーナリズム」という部分、つまりレポーティングの面を強調することが重要だと考えている。データジャーナリズムという行為はデータの分析やビジュアライズを目的とすべきではなく、世界で何が起きているかについての真実に迫るための道具として使用するべきだ。データを分析し解釈できるという能力は現代のジャーナリストにとって、もうひとつの努力目標などではなく、使えなければならない必須の道具になるだろう。

データジャーナリズムは世界を観察し、説明をする力を保つこれまでと違った方法なのだ。入手できるデータ量が増える中、ジャーナリストがデータジャーナリズムの技術を知ることは今やかつてないほど重要である。これはどんなジャーナリストの道具箱にもある道具になるはずだ。それは直接データを処理するか、あるいはそれが可能な誰かと共同作業をするかは関係ない。

その本当の力は、それなしには見つけたり証明したりするのが非常に困難であった情報を得るのを助けることだ。この良い例は、アンドリューという名のハリケーンによる損害パターンを分析した Steve Dolg の話だ。彼はハリケーンによって引き起こされる破壊のレベルのマップと風速を示すマップの2つのデータセットを組み合わせた。これによって、緩められた建築基準法と実際の酷い建築が災害の規模を左右したエリアを指し示すことが可能になった。彼は1993年の業績に対して ピューリッツァー賞 を受賞し、それはいまでもデータジャーナリズムに何ができるかの素晴らしい例であり続けている。

理想的には、データを使って外れ値なり、関心がある分野なり、意外なものなりを正確に指摘することになる。この意味で、データは案内役であったり密告者の役割を果たす可能性がある。確かに数字は面白いかもしれないが、データについて書くだけでは十分ではない。そのデータが意味するところを説く報道を行う必要がやはりあるのだ。

Cynthia O’Murchu, Financial Times

我々の情報環境の変化に適合する

新たなデジタル技術は、社会に知識を生み出し、広める新たな手法をもたらす。データジャーナリズムは、メディアが我々の情報環境の変化への適合、対処を試みていると理解できる――それは読者がニュースの基となる情報源を調べることが可能になり、ニュース記事を作り出し、評価するプロセスに参加することを促す、より双方向的で多元的なストーリーテリングを含む。

César Viana, University of Goiás

他の形では見られないものを見る方法

ニュース記事には、データの分析――と場合によっては視覚化――を経ないと理解し解説できないものがある。権力を持つ人なり団体の間にあるつながりは、隠匿されたままだったであろう麻薬政策による死、景色がそのままであり続けるのを損なう環境政策を秘密にするだろう。しかし、ジャーナリストがデータを手に入れ、分析し、読者に提供することで上記事項は変化した。データは、必要最小限のスプレッドシートや携帯電話の通話記録ぐらいシンプルかもしれないし、学校のテストの成績や病院の感染データくらい複雑かもしれないが、その中を見ればすべては語る価値があるニュースなのだ。

Cheryl Phillips, The Seattle Times

もっと豊かなニュースを語る方法

我々は自分の生涯のすべてをデジタルな足跡によって描くことができる。何を食べ、飲み、ブラウズし、いつどこに出かけ、音楽の好み、どんな初恋をしたか、子供たちの達成したいろいろ、人生の最後に望んだことですら、すべてトラックされ、デジタル化され、クラウドに保存され、拡散される。ストーリーを語る、質問に答える、人生の理解に寄与しようとする際に表面にあらわれるこうしたデータ世界は、逸話の徹底的かつ慎重な再構成のような手法を、すでに超えている。

Sarah Slobin, Wall Street Journal

スクープをものすのに新データなんかいらない

データはすでに公開されており、よく見た人がいなかっただけ、ということはそこそこある。イラク戦争中の民間軍事会社の活動を記述した4,500ページの機密解除文書についてのAssociated Pressによるレポートでは、文書は1人のフリージャーナリストによる情報の自由法に基づく米国国務省への請求によって何年も前に得られたものであるという。彼らは文書をスキャンしてDocumentCloudにアップロードし、それにより我々が網羅的な分析をすることができるようになった。

Jonathan Stray, The Overview Project